jidoutekina

感想はすべてネタバレ無双

『テスカトリポカ』読み終わった

佐藤究の「テスカトリポカ」ずっと気になっててやっと読めた!
めっちゃ面白くて、ぐいぐい夢中で読み進めてしまった。
血と暴力とドラッグが折り重なる凄惨な世界とアステカ神話の響き合いが想像以上にエネルギッシュで、コシモや幼いバルミロが夢中で聞いていたのもわかってしまう。
それでいてショッキングなだけではなくて、そこに精密にそれぞれの人生があって、絡み合って進んでいって…というところにいちばんドキドキした気がする。
最初のコシモ母の生い立ちから出会いのところですでに相当引き込まれたし……。


それぞれの信仰に対する帰結もよかった。
バルミロは狂信者なのか殉教者なのか、どっちとも言えるだろうけれど最後に自分だけの「神」を見る顛末はかなり好き。
生きていくには誰しも自分なりに辻褄合わせを設定する必要があって、合ってしまうことの恐怖と幸福が同居してる。
犯罪がうねりながら同時進行していく熱狂の中で、コシモとパブロのシーンがどれも静かでささやかで、叙情的で、それもすごいよかったな……。
最初にコシモが作ったナイフを見せてもらってステーキ屋に行くシーン、早朝のカヌーで話すシーン、どっちもかなり好きでした。


コシモは本当に魅力的なキャラで、鏡のような純粋さと恐ろしさがあって、でも寄る辺なくていい。
2m超えの怪力の大男でありながら小さな子供なんですよね。文章で見ると特に。
何度か出てくる時間に対する哲学(主体は時間で、それが体験している)もかなり好き。
アステカの謎めいた文化と血みどろの裏社会と身近な貧困がすべて「それぞれの人生」に結実していく物語は、たしかに「主体は時間」な気もする。
かなり死にまくって終わる話なのに、そういう積み重ねた人生の発露、叙情の昇華が綺麗で、読み終わりはなんか爽快ですらあり……
読めてよかったな~。面白かったです。